093531 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

目指せ!シナリオライター

目指せ!シナリオライター

弱くなんかない

秀美「ああーっ。」
その瞬間、ボールが、右翼手のミットにおさまった。
マウンド上で、喜びあう相手校のナイン達。
一塁上で、うずくまる最後の打者、幸子。
ベンチで、ガックリ肩を落とすナイン達。
結果は、1対0の惜敗。
しかし、内容は、地区大会NO1投手のエース・松野 秀美が、守備に足を引っ張られながらも相手を三塁手・星村 幸子のエラーの1点に抑えただけ。
打線も秀美以外は、全員無安打。
でも、みんなソフトボールへの情熱は、人一倍だが、実力が伴わない。
みんなの泣き顔を見て秀美は、感じた。
秀美心の声「次は、絶対一回戦突破できるよ。これだけみんな悔しがってるんだもん。秋の大会ではずみをつけて来年こそは、全国大会行こうね。みんなで。」
秀美、涙を流す、チームメートを励ましている。

ベンチ(中)
顧問の生物教諭・長松 茂喜が座っている。
秀美「先生、試合終わりましたよ。早く帰りの準備してください。」
長松「(眠そうな眼をこすりながら)おっ、そうか。やっと帰れるな。(得点板の方に目をやりながら)みんな、よく頑張ったな。たったの1点差じゃないか。よし、次につながる試合が出来たな。上出来。上出来。来年こそは、勝てるぞ。今日は、帰ってゆっくり休め。」
部員達は、消え入りそうな声で「はい。」と返事しただけであった。

グラウンド(放課後)
四面のコートがあり、ソフトボール部の他に、陸上部・テニス部・サッカー部がそれぞれ練習をしている。
ソフトボール部以外は、予選を勝ち進んでいるため、活気が入った練習をしている。
みな、ソフトボール部を厄介者のようにみている。

ソフトボール部グラウンド
試合の翌日のせいか部員、一向に元気がない。
他の部を気にしてかみんな一様に小さくなっている。
秀美「みんな、いつまで落ちこんでんの?そんなんじゃ、来年も勝てないよ。みんな、昨日の涙を忘れたの?その気持ち、おもいっきり練習にぶつけようよ。」
みんな、秀美の声に促されて、ノロノロと立ち上がり、練習に入っていった。
しばらくすると、いつもの様に気合が入った練習になっていた。
秀美・心の声「みんな、やる気は、人一倍あるんだから、大丈夫だよ。絶対、後から実力はついてくるから。みんな、自分や仲間を信じて頑張ろうね。」
いつの間にか、日は沈み、あたりは、暗くなっていた。
幸子「あーあ、うちにもきちんとした指導者がいてくれたらな。もっと上手くなれるかもしれないのに。どうせ、うちの先生は、顕微鏡に夢中なんだろうな。」
部員A「そうだよね。何であんな先生が、顧問やってんだろう?」
秀美「・・・・・。」

グラウンド(日替わり・放課後)
活気の入った練習が、各部行われている。
サッカー部では、試合形式の練習が行われている。
校長や見学の生徒達が、応援して盛り上がりを見せている。

理科室(中)
顕微鏡に夢中の長松。

グラウンド
ランニング。
キャッチボール。
賑やかに行っている。
ノック。
秀美が、バットを持ち、各ポジションに鋭い打球を打っている。
みんな取れては、いないが、懸命にボールを追っている。
他の部や見学の生徒達が、時たま囃し立てている。
そんな目も気にせず、笑顔を絶やさず練習をしている。

数日後
グラウンド(放課後)
いつもの様に、活気の入った練習が行われている。
普段、練習に顔を出さない長松が現れた。
白衣姿で、練習にきたわけでもなさそうだ。
みな、長松の来た事に気づき、集合する。
長松「みんな、聞いてくれ。重大な発表がある。秋の地区予選で優勝出来なかったら、この部が廃部になることが決まった。(しばらく秀美を見つめた後)まあ、ここ数年、一回戦負けのチームが、ここのグラウンドの邪魔になっていると他のクラブからの指摘があったんだろう。先生は、みんなのやる気が優勝につながると信じている。頑張ってくれ。」
長松は、そういい残して、足早に後者へ、向かっていった。
部員達は、絶句して、何一つ言えなかった。
そして、みんなサッカー部のグラウンドを睨み付けた。

グラウンド
サッカー部・主将中山 哲子がこちらを見て笑っている。
哲子の家は、名家で父は、PTA会長で学校で物を言える者もいなかった。

秀美の家(食卓・夜)
食卓には、夕食が並んでいる。
母・由子「だったら、転校すればいいじゃない。あんたの実力なら、どこにいってもエースになれるんだから。」
秀美「(大好きな唐揚げをほおばりながら)そう、簡単に言わないでよ。せっかく、入った学校なんだからさ。」
弟・和樹「汚えーな。がっつくなよ。近いから選んだくせしやがって。何がせっかく入っただよ。」
秀美、和樹に箸を投げつけ、和樹の鼻に命中した。
和樹「痛えーな。何すんだよ。」
父・敦司「秀美、辞めなさい。女の子なんだから。」
ビールを、そっとすすりながら、言った。
秀美「(敦司を睨み付けながら)女の子だから何?いつもそういう言われ方嫌だっていわなかったけ?」
敦司「す、すまん。」
秀美「痛いー。」
秀美の耳を由子が思い切り引っ張る。
由子「(秀美を睨み付けながら)お父さんに何て口聞いているの?お父さんもしっかりしてくださいよ。だから、子供達が、付けあがっちゃうんですよ。何でうちは、こうも女が強いのかしら。」
呆れたように台所に向かう母。
由子「たまには、手伝いなさいよ。皿洗いくらい。」
秀美「(面倒くさそうに)はい。はい。」

3年B組(中)
長松「この、細胞は・・・・・。」
淡々といつもの様に授業を進める長松に腹が立つ秀美。
同じクラスの捕手・山田 和代や幸子も朝から落ち込んだ様子。
グラウンド(放課後)
渡辺校長が、ソフトボール部の練習を見学している。
一番、早く練習を始めたためか、周りの生徒達が、練習を見ている。
みんな、緊張と不安で練習にならない。
秀美「どうしたのよ?みんな。練習したくないの?だったら帰りなよ。」
幸子「何か、周りが私達は、廃部だって、馬鹿にされてるような気がして・・・。」
他の部員達も頷く。
和代「何で、秀美は、そんなに元気なの?負けたら廃部になるって言われたのよ。私達、このチームになって一勝も出来てないのに。私達、どうすればいいのかわからないよ。先生も頼りにならないし・・・。」
長松、白衣姿でグラウンドの横を通りすぎ、校舎へ入って行った。
部員達、長松を目で追った。
秀美「私は、廃部になるなんてこれぽっちも思ってないよ。だって、みんながいるじゃん。みんなをしんじているから。和代、あなたが、私の球を一所懸命にとってくれるから。私は、おもいっきり投げられるの。あなたが、隠れて練習してるの嬉しいし。
和代、慌てて、顔を上げる。
和代「秀美・・・。」
秀美「また、みんなが後ろで守ってくれてるから。思いっきり投げられるの。これだけ、信頼できるバック他の学校にないもの。みんなも(幸子の顔を見て)自分や仲間を信頼してこれから頑張ろう。廃部になんかならないよ。みんなが前の試合の後、見せたあの涙みて、私、次こそはと思ったよ。みんな、下向いてないで、上を見ようよ。」
部員達、秀美の言葉に励まされていたが、ただ一人、幸子は、下を向いたままだった。
幸子「ごめん。私、帰るね。しばらく、練習出ないと思う。」
幸子は、そういい残すと、部室へ向かった。
秀美「幸子・・・・・。」
みんな、幸子を呆然と見ていた。
和代「どうしたんだろう?幸子。」
右翼手の奈良橋 美加に話し掛けた。
美加「さあね。でも、いつも、私達が話し掛けてもあまり答えないしね。仲間を信じるって言葉に何か思ったんじゃない?すぐに、些細な事も気にしては、なんか問題ふりかけてたし・・・。」
秀美「・・・・・(違うよ。美加。幸子のことを悪く言わないで)。」

理科室(中)
長松は、一瞬、グラウンドに目をやったが、気にせず実験に戻った。

廊下
幸子が、泣きながら走っていった。
長松、開いているドアに目をやる。
何事もなかったかのように、顕微鏡に目をやる。

グラウンド
左翼手・山本 恵「なあ、校長のヤローに直接、講義しようぜ。こんな、やり方、汚ねーよ。」
二塁手・島田 圭子「まずは、長松先生に言ったほうが・・・。」
恵「馬鹿、あんな奴、役にたたねーよ。なあ、行こうぜ。秀美。」
圭子「でも・・・・。」
部員達も次々、はやし立てる。
中堅手・佐々岡 典子「どうでもいいけど、早く練習しようよ。(暗くなってきた空を見て)時間もないし。」
典子は、今までの話に興味なさそうに言った。
恵「(典子を睨み)お前は、黙ってろよ。部の死活問題なんだぞ。少しは、真剣に考えろよ。」
典子は、ちらっと恵を見て
典子「だって、決まったことなんだから、仕方ないじゃん。そんなの変えられっこないよ。それより、勝つために練習した方が賢明だよ。ねっ、秀美。」
秀美、じっと黙って聞いていた。
みんな、秀美を凝視している。
秀美「典子に賛成する。だって、私達だって、あれだけ頑張ってきたんだから。今度は、絶対、勝てるよ。幸子の事は、私に任しといて。主将として何とかするから。さあ、練習しよう。」
秀美は、いつものようにグラウンドを走りだした。
秀美「イッチ・ニィ、イッチ・ニィ。」
みんな、走らず、顔を見合わせている。
秀美、さらにランニングを続けている。
秀美「イッチ・ニィ、イッチ・ニィ。」
典子「はら、行くよ。秀美に続くよ。イッチ・ニィ、イッチ・ニィ」
典子、勢いよくダッシュ。
圭子「アーン、待ってよ。典子。」
圭子、のろのろと走り出す。
他の部員達も互いに顔を見合わせて、次々と走りだす。
いつの間にか、サッカー部など、他の部の練習も始まって、賑やかになっていた。
ソフトボール部も負けずに大きな声を出しながら走っている。
恵は、走らず、秀美を睨みつけている。
美加「何よ、秀美の奴。自分ばかりいい顔しちゃってさ、自分がソフトうまいから、どこの学校でもやっていけるからいいだろうけどさ。私達なんか、二年間、一所懸命練習してきたのに、ちっともうまくならないのに。他の学校に行ったらまともに練習すらできなくなるのに。こんな私達のバックなんてはたからみても下手なのわかるのに馬鹿にして。」
恵「あいつ、マジで、幸子を説得できると思ってるのかな。幸子は、ほとんど、これまで誰ともほとんど、口聞いたこともないのに。いつも、自信満々の顔して、気にいらなかったし、あいつの慌てた顔が見れるかもな。」
恵と美加、秀美の方を見て笑っている。
守備練習が、始まっていた。
三つのポジションは、空いていた。

更衣室(中)
カシャッ
美加「どうする?恵、明日から練習?」
美加は、ユニホームを脱いでいる。
カシャッ
恵「もうしばらく出ないよ。何で、校長達のやりかたになんとも思ってないし、本当に自分達のことが必要か確かめられるまでは、出ないよ。」
カシャッ
恵もユニホームを脱いでいる。
恵「しかし、本当にこの音、直らないかな。カメラで撮られてるみたいで気色わるいぜ。ったく。」
ガタッ
恵と美加がロッカーに近付く。
ガターン・ガターン
更衣室が揺れ始めた。
恵「わっ、地震だ、地震。」
恵、美加に下着姿のまま、抱きつく。
カシャッ
怪しい音がしたが、二人は地震に気を取られて気づかなかった。

グラウンド(夕方)
秀美がノックしている。
鋭い打球が飛んでいる。
圭子は、全然追いついていない。
しかし、熱心に打球を追っている。
他の部員も同じくらいの状況だ。
秀美は、一所懸命に打っている。
和代、秀美にボールを渡す。
和代「秀美、どうするの?美加と恵と幸子がいないんじゃ、練習まともにできないよ。」
秀美をじっと見つめる。
典子「じゃあ、私が全部、守ってやるよ。」
典子は、相変わらず、危機感を感じていない。
和代「典子、冗談、言ってる場合じゃないよ。秀美、誰か代わりにやらせようよ。」
秀美は、首を横に振った。
秀美「必ず、三人は、戻ってくるよ。だって、みんな必死に練習してきた仲間だもん。私は、信じてる。ポジションは、空けておくよ。」
圭子「そうだよ。必ず戻ってくるよ。」
秀美は、圭子に向かい微笑んだ。
遊撃手・高田 裕子「圭子のは、当てにならないからな。」
一塁手・加藤 美紀「そうそう。」
裕子と美紀は、馬鹿にするように圭子を見た。
圭子は、むくれた。
秀美「ほらっ、圭子、ボーッとしてないで行ったよ。」
するどい打球が、圭子の足元へ。
圭子「きゃっ。」
足元を打球が抜けて行った。

ホームベース上
秀美「うわっ」
秀美の足元にサッカーボールが転がってきた。
サッカー部の主将・三浦 哲子がボールを取りにきた。
哲子「(馬鹿にしたように)あーら、ごめんなさい。もうここあいてると思ったから。おもいっきり飛ばしちゃって。まだ、地区予選まで三ヶ月あったわね。せいぜい頑張ってね。(グラウンドを見渡して)あれ、何人かいないみたいね。秀美。もしかしたら、逃げ出したのかな?みなさん、いつでもサッカー部は、歓迎しますよ。」
後ろで、他のサッカー部員たちが笑っている。
哲子は、地区NO1ストライカー。
典子「お前なあ、いくらサッカー、上手くても、まともに練習しなかったり、こう人を馬鹿にしてると、Lリーグにはいれないぞ。お前には、スポーツマン精神がないからな。」
秀美達、何も言えずにいたが、頼もしい目付きで典子を見つめている。
哲子「何ですって?私のどこにスポーツマン精神がないって言うの。馬鹿も程々にしてほしいわ。」
哲子は、プライドが傷つけられたように顔色を変える。
秀美「典子の言う通りだよ。あんたは、スポーツマンではないよ。サッカー部のコートから、こっちへシュート打つのは、ゴールポストと反対側なのにおかしいよ。それか、哲子がよほど、サッカーのルールを知らないって事だよね。今まで、他の部やサッカー部に対してはそれでよかったかもしれないけど、ソフトボール部は、そうはいかないよ。」
ソフト部員たちは、哲子達の前で仁王立ちになった。
哲子「覚えてらっしゃいよ。」
サッカー部員達は、逃げるように去った。

理科室(中)
窓から、微笑しながら長松は、眺めている。
長松「さあ、実験だ。実験。」
顕微鏡を覗き始める長松。

2―C教室(昼休み)
秀美「一緒にお昼どう?」
一人、寂しそうに弁当箱を広げる幸子に話しかける秀美。
和代「やめなさいよ。秀美。彼女は、一人の方が仲間といるより楽しいんだから。」
みんなが、秀美達のほうを見ている。
幸子「(周りの視線を気にして)ほっといてよ。」
たまらず、教室から逃げ出した。
和代「早く食べて、練習しようよ。」
秀美「・・・う、うん。」
ソフトボール部は、昼休みに練習を始めた。

グラウンド
筋トレやキャッチボール、軽いメニューが中心である。
和代「また、校長が見てるよ。本当に嫌味な奴。」

校長室(中)
校長は、長松と何か話しをしながら、こちらをチラチラと見ている。

グラウンド
裕子「でも、本当に練習を見てるのかな?私達の体だったり。あの、色眼鏡かけて、それも長松とセットであやしい。嫌だー。寒気がする。」
裕子と他の部員達、体を抑える。
美紀「そうそう。」
典子「見返してやろうよ。あんな奴。和代、あれっ?秀美は、どこに行った?」
腹筋運動で起き上がる和代。
和代「ああ、秀美なら、幸子のところに行ったよ。多分、無駄だと思うけど・・・。」
典子「(背伸びをしながら)秀美なら、説得するよ。何があってもどんな事でもあきらめないでやり通すそんな奴だよ。秀美ほどの実力ならこんな弱小チームなんて嫌がるはずだろう。でも、秀美は、このチームと仲間を心から愛しているんだ。それだから、私達もついてきたんだろう。
いつの間にか、部員達が集まっていた。
部員A「そうですよね。典子先輩のいう通りですよね。」
部員達、典子の意見に賛成する。

屋上
幸子「何よ。秀美。何を言われても戻らないからね。ほっといてよ。」
幸子は、階段を早足で降りて行った。
長松「こらっ、星村、廊下を走るな。」

廊下
美加「どうやら、幸子に逃げられたみたいね。」
恵「まあ、せいぜい、頑張ってよ。応援してるからさ。あっ、松野主将ねこれ二人の。よろしくね。」
恵、ふたつの白い封筒を取り出した。
表には、退部届けとあった。
秀美「そ、そんな・・・。」
秀美、愕然とする。
哲子「私の勝ちね。二人とも、サッカー部に入部してもらうことになったの。やっと、あなたの慌てた顔みれたわ。自分のチームもまとめられないでスポーツマンって言えるのかしら?あら、カメラに写したいくらい。二人もその顔が見たかったんだって。」
恵「あー。なんかせいせいした。」
美加「うん。何か初めて秀美に勝った感じ。」
三人とも、笑いながら、階段を下りていった。
秀美、泣きながら廊下を走っていった。

理科室前
秀美、誰かにぶつかった。
白衣を着た長松だった。
秀美「ど、どうして?」
秀美、たまらなく涙があふれた。
長松が、秀美の肩に手をあてた。
長松の胸のなかで、秀美は、声をあげて泣き出した。
大勢の生徒がみていた。
長松は、秀美を強く抱きしめた。

数日後
秀美は、幸子にあたってみたが話しもしてくれなかった。

サッカー部グラウンド
恵「へへっ、ソフト部は、まだ練習始めないのか?」
美加「秀美も幸子を説得するのにいっぱいいっぱいだからね。秀美がいないとこんなものよ。秀美が・・・。」
二人、ソフトボール部の閑散としたグラウンドをみている。
哲子「さあっ、練習始めるわよ。そこの二人、何をボケッとしてるの?草刈りよ。
草刈り。」
恵と美加が顔を見合わせる。
恵「草刈りだと?こら、ふざけんなよ。哲子。私達、二年だぞ。何で一年が普通に練習してんだよ。何で、私達が、草刈りなんだよ。説明しやがれ。」
美加「そうよ。何で草刈りなんか・・・。」
二人は、哲子に詰め寄った。
哲子が、二人の前に立ちはだかる。
哲子「それが嫌だったらソフト部へ戻ればいいわ。」
二人は、哲子を睨む。
哲子「まっ、いまさら、戻ってもあんた達の居場所なんかないでしょうけど。」
哲子は、ソフトボール部のグラウンドの方をみた。

ソフトボール部・グラウンド
守備練習が行われている。
レフトとライトには、それぞれ別の選手が入っている。

数日前
学校(廊下・昼休み)
秀美「二人の場所は、空けておくから。また、ソフトやりたくなったらいつでも待って・・・。」
恵と美加は、笑いながら聞いている。
秀美の目から涙がおちた。
慌てて、足早に階段を下りて行った。
恵・美加「秀美・・・。」
二人、秀美の涙に驚き、何も言えなかった。
美加「どうする?恵」
恵「何、動揺してるんだよ。また、秀美に馬鹿にされてーのかよ。ソフトになんかもどらねーよ。」
恵、動揺を隠すように大声で言った。
哲子「あら、どうしたの?お二人とも。ソフトに戻らないんならうちに来れば。恵は、結構、足速いから、サッカーを少しづつ、覚えて練習すれば、すぐにレギュラーになれるわよ。美加だって、真面目にどんなことでも頑張る強さを持ってるから期待してるわよ。二人とも入る部を間違ってただけよ。私のところにくれば、悪いようにしないわよ。」
わざと大きな声で話す哲子。
泣いて歩いている秀美を笑って眺める哲子。
周りの生徒や教師は、哲子を恐れて見て見ぬふり。
哲子の父親は、この辺では、有名な名士だった。
哲子「(二人に向かい)入部するんだったら、いつでも待ってるから。」
二人は、即時に入部を決めたが、何かしっくりこないものを感じていた。

ソフトボール部グラウンド(放課後)
守備練習が行われている。
レフトとライトには、また、それぞれ入っている。
また、秀美は、練習に出ていない。
和代や典子が仕切っているが、あまり練習らしい練習くち出来ていない。

サッカー部グラウンド
恵「ったく、あいつら、練習の仕方しってんのかよ。見てらんないぜ。」
美加「本当にね、やっぱ秀美がいなきゃまとまらないよ。秀美が・・・。」
二人は、相も変わらず、草刈りをしていた。
哲子「何、無駄話してんのよ。あなた達、そこの草刈り終わらせないと帰さないからね。早く雑用もしてもらわないと困るんだから。本当に元ソフト部は、役にたたないわね。まあ、でもあなた達のおかげで大事な一年生が練習できるんだけどね。」
恵と美加、哲子を睨む。
一年部員「早く雑用もお願いしますね。」
教頭「やあ、三浦君、サッカー部が草刈り引き受けてくれて助かったよ。」
哲子「いえいえ、お世話になってる学校ですもの。当然のことですよ。」
恵と美加、哲子を睨む。
校長・長松「・・・・・。」
教師達、去って行った。

哲子「なーに?何か言いたいことあるの?何でもいいから言ってらっしゃいな。まあ、でも私に反抗できる人は、この学校にはいないだろうけど。・・・ただ一人を除いては。」
いつの間にか、来ていたのか、哲子の目の先には、秀美がいた。

ソフトボール部グラウンド
秀美がきているためか、練習に活気が出ている。
みんな、秀美の指示通り動き、練習にまとまりが出てきている。
とても、楽しそうに練習している。

サッカー部・グラウンド
恵と美加うらやましそうにみている。
足元をみると、グラウンドいっぱいの雑草と釜。
哲子「何やってんのよ。さっきから、ちっとも進んでないんじゃないの?早くやりなさいよ。」
一年部員「まだ、草刈り終わってないんですか?あらあら、まだまだこんなに。

芝生いっぱいに広がる草。
二人は、唖然とした様子でみている。

理科室(中)
長松は、グラウンドの方を見ている。

グラウンド
ここ、最近毎日、各クラブの練習を見学している校長。
テニス部員「やっと、お荷物クラブがなくなるね。来年からグラウンドが広くなるね。」
テニス部員「校長先生、本当にソフト部を廃部にするつもりみたいだね。前は、こんなにこなかったもんね。」
各クラブよりソフトボール部への批判が高まっていた。
裕子「何か嫌だな。練習にでるの。他のクラブから白い目でみられてるような気がして、穴があったら入りたい気分。」
美紀「そうそう。」
ストレッチをする典子。
典子「そんなこと気にしてもしょうがないだろう。それとも、他の部行って、あいつらみたいになりたいか?」

サッカー部グラウンド
ひたすら、草刈りをする恵と美加。
他の部員から笑いの種になっていた。
美加「どうする?恵。毎日、草刈りばかりでばからしくない?私達、完全な哲子のいいなりだよ。」
恵、答えず、草刈りを続けている。
美加「ねえー、恵ったら。」
美加、たまらず、恵の腕を引っ張る。
恵「うるさいなー。戻りたいんだったら一人で戻れよ。私は、秀美が頭を下げてくるまで戻らないからな。」
美加、黙り込んでしまう。

ソフトボール部グラウンド
典子「(恵と美加に目をやりながら)ああは、なりたくないだろ。」
美紀「そうそう。」
圭子「ヤダー。草刈りなんてしたくない。でも、かわいそう。」
みんな口々に叫ぶ。
裕子「そうだね。ああは、なりたくないよね。相変わらず、美紀と圭子の答えは当てにならないな。」
美紀と圭子は、むくれている。
和代「ノック始めるよ。」
和代、ノックが上手く出来ず、練習らしい練習になっていない。

理科室前の廊下
長松、相変わらず、顕微鏡を覗いている。
秀美、横目で理科室の中を覗きながら教室へ向かう。
長松「松野、待て。今まで通り星村を説得しても無駄だぞ。星村の事気づいてんだろう?あいつにどうしても戻ってきて欲しいんなら本気でぶつからないと戻ってこないぞ。あいつだって、戻りたいんだ。お前、変に相手に気を使うところあるからな。」
秀美は、黙って聞いていたが、首を横に振った。
秀美「言えないよ。先生、私には・・・。」
ビシッ、長松、秀美の頬を張った。
長松「お前、主将だろ?みんなで、試合をやってこのチームで勝ちたいんだろうが。それには、星村も必要なんだろうが。廃部にしたいのか?お前、前に俺に行ったこと忘れてんのか?私が部をまとめて一から立て直すと言ってただろうが。それまで、誰の力も借りないって。大口叩いただろうが。俺は、それを信じてるんだろうが・・・。あっ・・・。」
秀美「先生・・・。で、でも私、・・・私には、もう部をまとめる力なんかない。思い上がりしてたのかも。みんなをわかってるって錯覚してたのかもしれない。・・・。」
秀美は、場所を気にすることもなく、声をあげて泣き出してしまった。
周りの生徒達が不思議そうに眺めている。

理科室(中)
長松、慌てて、秀美を中に連れ込んだ。
秀美は、長松の胸の中でさらに泣き始めた。
さらに、長松は、秀美を強く抱きしめた。
長松「うちの部には、お前が必要なんだ。みんな気づいているさ。山本や奈良橋だって本当は、戻りたいんだ。ただ、つまらない意地というかプライドが邪魔しているだけさ。お前が、その素直な気持ちであいつらを避けることなく向き合えば必ず戻ってくる。あいつらには、その勇気もないんだ。お前は、その勇気をもっている。正々堂々、正面から話して来い。星村には、きちんとあいつの気持ちを聞きだすことだ。それをできるのは、お前しかいない。みんな、お前がいないとまとまらないことは、わかっているさ。」
秀美、長松の顔を見上げる。
長松「何だ?その泣き顔、似合わないぞ。今からチームをまとめていこうとする者が。」
秀美は、ハンカチを目にあてた。
秀美は、長松に笑顔を見せた。
長松「よしっ、行ってこい。あっ、着替えてからにしろよ。練習も少しくらいみないと駄目だからな。松野は、ユニホーム姿が一番似合うからな。」
秀美「はーい。先生ありがとう。」

更衣室(中)
カシャッ
秀美は、着替え始めた。
秀美心の声「嫌だな。この音。何か、カメラで盗撮されてるみたいで薄気味わるい。」
和代や典子や他の部員たちが入ってきた。
和代「あっ、秀美じゃない?今日、練習でるの?やったー。」
和代、秀美に抱きつく。
典子「やっぱ、秀美がいなきゃ、練習らしい練習はできないからな。」
みんな、口々に秀美を誉めている。
秀美、恥ずかしいような、うれしいような複雑な気持ちになった。
秀美「練習っていっても、少ししか出れないけど、後で、三人もやっぱり、ソフト部に戻ってもらわないといけないから・・・ごめんね。」
みんな、顔を見合わせて笑った。
和代「いいよ。気にしないで。やっぱり、三人戻ってこないと私達寂しいし、一緒に練習してきた仲間だから。いつしか、その仲間のことを悪く言ってごめんね。」
典子「こっちの練習は、任しといて。」
美紀「そうそう。」
裕子「美紀は、そればっかり。」
一同、大笑い。
カシャッ・カシャッ
圭子「ヤダー。いつもこの音、気味悪いよ。」
秀美「本当にね。何とかならないかな。」
典子「何か盗撮されてるみたいなんだよな。」
みんな、口々に言い合っている。

教室(中)
幸子「毎日、毎日しつこいわね。もう戻らないって言ってるでしょ。もう、ほっといてよ。」
秀美「幸子、前の試合のエラーのこと気にしてんでしょ?自分のエラーのせいで負けたと思ってるんでしょ?それなら、誰も責めてないよ。幸子が、その試合、足を痛めて出ていたこともみんな知ってるよ。でも、誰もとめなかったよ。とめられないよ。幸子のそれまでの頑張りをみてたら。」
幸子驚いた表情で聞いている。
秀美「幸子は、そのことを、負い目に感じることないよ。責めてる子は、誰もいないし。」
幸子「(秀美を睨み付けながら)そ、それだけじゃ・・・。」
秀美「私は、嘘は言ってないし、みんなを馬鹿になんかしてないよ。サードは、幸子じゃないと私、安心して投げられないよ。不安で。恵や美加もいないと投げられない。みんな、私の調子悪いときとか、気をつかってくれるし、その日の私の気分や調子によって接する態度とか変えてくれるし、技術的なことじゃないよ。精神的にみんながいると私、100%の力で投げられるの。廃部のことなんて試合終わってから考えればいいし。」
幸子「えっ・・・。秀美。」
廊下を慌てて駆けて行く二つの足音が聞こえた。
秀美「幸子が、ソフト部に戻りたいのもわかってるし。」
幸子「だから、戻らないって。」
秀美「隠しても駄目。私には、わかるよ。顔にかいてあるし。」
幸子、慌てて顔を触る。
秀美「それに、退部届を出してないのが、なによりの証拠でしょう。来週、練習試合決まったから、サードは、空けて待ってるから。来てくれたうれしい。」
幸子は、何も言えなかった。
秀美は、幸子の肩を叩いて出て行った。
グラウンドから聞き覚えのある掛け声が聞こえてくる。
ふいに、グラウンドを見渡す幸子。

教室のドアが開き、人が入ってきた。
その足跡が、幸子の後ろで止まった。
長松「普段、松野がお前達一人一人のことをきちんと見ているか少しは、わかっただろう。松野は、確かに、ソフトの実力は、一級品だが、お前らを思う心も人一倍なんだよ。でも、強がっていてもあいつも17歳のただの女の子なんだよ。お前も助けてやってくれよ。今まで、どれだけあいつに助けられたか考えてみろよ。(廊下にむけて)お前らもな。松野や俺をいちいち追いかけて忙しいやつらだな。」
廊下を駆けて行く二つの足音。

幸子の回想
無口な自分にいつも話しかけてくれる秀美。
教室。
登下校中。
グラウンド。
エラーやチャンスに凡退したときに励ましてくれる秀美。
幸子「秀美が、秀美がいたから・・・。」
幸子は、更衣室に向かった。
すでに長松の姿は、なかった。

更衣室(中)
カシャッ・カシャッ
幸子・心の声「もう、本当に嫌な音。本当に何とかならないのかしら。」
幸子は、戸惑いながらも着替え始めた。

グラウンド
部員たちが、練習している。
秀美が、ノックをしている。
センターの典子が、必死に難しい打球を追っている。
捕れてはいないが、確実に追いついている。
他の部員達も、大きな声を出し、典子を応援したり、球拾いをしたり、互いにキャッチボールをしている。

更衣室(中)
グラウンドをみている幸子。

グラウンド
秀美は、グラウンドに向かってくる一人の少女を見つめている。
秀美「(笑顔で)お帰り。」
幸子「(真顔で)ただいま。サードは、空いているの?」
秀美「もちろん。」
幸子は、秀美に笑顔を見せた。
みんなが、幸子に気づき集まり出した。
典子「幸子、お帰り。」
圭子「わあっ、帰って来てくれたんだ?」
裕子「寂しかったよ。もう。」
美紀「そうそう。」
部員達にモミクチャにされる幸子。
秀美は、その様子を見ていて嬉しい気持ちになった。

秀美の回想
一人で弁当を食べる幸子。
一人で通学する幸子。
黙々と練習する幸子。

幸子「(笑顔で)ただいま。心配かけてごめんね。」
今までに見たことのない笑顔だった。
秀美「幸子・・・。」
幸子の胸で泣き出す秀美。
もらい泣きする部員達。
校長「何があったんだ?」
教頭「さあ?何ですかね?長松先生。」
長松「(笑顔で)さあ、何でしょう?」
長松は、笑顔でグラウンドを見つめている。


© Rakuten Group, Inc.